逢瀬

私が仕事で都内近郊に出る日に合わせ
彼が仕事を調整してくれた。

彼の仕事は私もかつて目指していたものだった。
長い年月の間に
彼は沢山のことを経験し
成長していた
それがとても眩しかった。

リスペクトがそのまま想いに?

そんな自問自答を繰り返しつつ
気持ちの変化の原因をさぐるという意味のない行為は
自分を追い込いこんでしまいそうだった。

あえばわかる。
自分の気持ちは、あえばはっきりする。
どうしたいのか、どうなりたいのか。
子供じゃないんだから、しっかり受け止めなくては。

 

仕事を済ませてから約束の時間まで
大分時間があった。
ひとりで街を散策する。
電車を乗り継ぎ街中を歩き、公園を歩き。
彼への思いを馳せながらひとりで歩くのは楽しかった。
ひとりでいることさえも楽しめるのがとても新鮮に感じられた。

彼の退社時間を見計らって、最寄り駅で彼を待つ。
彼はすぐに現れた。
そこから電車にのり、違う駅に向かう。
手をつないだり、
つついたり、
何とも子供っぽくちょっかい出しあうのが楽しい。

彼が前もって調べておいてくれた【ゆっくりできる場所】に向かう。
途中コンビニで食料を調達した。

【その場所】は、街中に突如として現れた。
こんなところに・・と感心しながら、中に入った。
ありきたりな作りのその場所。
二人きりになれた安堵感で満たされていた。

ふたり照れながらキスをして
触れるのが怖くて
時々ふと我にかえり離れてみたり。

彼が壊れもののように私に触れる
私の胸のえぐりとられた傷痕に
優しく唇を押しあてる
触れられている感覚が遠くの方で感じられる
それがとてもうれしくて
さらに彼に身をゆだねる

もう、こんな感覚は味わえないと思っていた。
年齢と共に退化していくものだと思い込んでいた。
だけど、そこにあるものは
かつての記憶よりも、もっと高みにあるものだった。

ずっと身体の中でくすぶっていたものが
全て解き放たれて、
出てきた言葉に笑ってしまう。

『すっきりした』

華奢で甘いマスクをした少年は
ちょっといかつめの大人に成長していたけれど、
何年もの時を経た今、
私の前には何も変わらない彼が優しく微笑んでくれていた。

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