円山町~end~

すっかり化粧もはげ落ちたので
顔を洗って残った化粧も洗い落とす
あれだけ乱れておいて
すっぴんが恥ずかしいというのもおかしなもんだ

 

 

ホテルの受付で「4時間もいないし・・」と言っていたくせに
気がつけば時間ぎりぎりになっていた
慌てて化粧をしなおして
身支度を済ませる

結局4時間部屋にいた

彼といるのがとにかく楽しい

渋谷の駅に向かう道すがら
数年差で同じ場所で過ごしたことがあることを知った

私の電車の時間を気にしながら
手をつないで向う

胸の傷に貼った冷え対策のホカロンのせいで
身体が温まりすぎてのぼせてた
彼にしがみつくように歩く
でもとにかく楽しくて

途中まで同じ電車に乗っていられるからと
彼がそばに立ってくれる
電車での距離感がつかめない
彼の指先が
私に触れるか触れないか
戸惑っている感じが伝わってくる

途中で席が一つ空き
私が座る
目の前に立っている彼の瞳を
じっと見つめる
なんて優しい目をしているんだろう
ずっとこの瞳に見つめられているだけで
私は幸せだと思えた

彼が家族を思う
仲間を思う
彼を独占することも私を独占させることもできないけれど
彼のまわりに愛が溢れていることを誇りに思う
家族を思う彼だから
私は彼が好きなんだ
彼が大切にすべきものをちゃんとわかっているから
私は彼を誇りに思うし
そういう彼を好きな自分を誇りに思う

彼を自分だけのものにしたい
彼の愛を独占したいと思うほど私は弱くない

夢の中はふたりだけの世界
その世界に巡り合えたことが
今一番幸せなことと感じることが出来るのは
しっかり地に足をつけて歩いているから
そしてそれに気がつかせてくれたのは彼

彼が先に電車を降りるとき、
「じゃ、またね。」とハイタッチして笑顔で別れた。

電車の外を歩く彼を見ながら
私はそのまま電車に揺られていた。

電車を降りて駅に降り
待っていた車に乗り込む
「おかえり」という声を耳にしながら
時計を見ると0:00だった
まるでシンデレラみたいと思いながら「ただいま」と声に出す

本当に夢を見ているのだろうか
いや違う
私のえぐられた左胸に
彼の優しい唇の感触がまだ残っている

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