彼女の名前を呼ぶと

再会した時には、彼女を「○○ちゃん」と呼んだ。

数十年前はなんと呼んでいたかわすれたが、おそらく名字に「さん」をつけて呼んでいたと思う。

最近は、女性を呼ぶときは、それほど親しくなければ、名字に「さん」をつけて呼ぶが、ほとんどは「○○ちゃん」。もしくは名前を呼び捨てにする場合もある。

地域でつながっていて、よく飲む仲間たちみたいな女性は、呼び捨てにすることが多い。
なんとなく、さんをつけて呼ぶのは、よそよそしくて相手に失礼な感じがしてしまう。

なので、おそらく、彼女と再会した時は、自然と「○○ちゃん」と呼んだ。
久しぶりにあう親しい友だち。嗜好が同じ往年の仲間、という感覚でそう呼んだ。

次に大森であった時に、「ちゃん」を付けずに呼び捨てで名前を呼んだ。
自分としては普通の流れだった。
親しみを込めて、よそよそしく感じる「ちゃん」をつけずに、親しみを込めたつもりだった。

普通の友達や仲間であれば、なんのことはない呼び捨て。

彼女と体を合わせながら呼んだ呼び捨ては、自分の中の感情の何かを揺さぶった。

それが何なのかわからないが、名前を呼ぶことによって、夢の中の彼女が夢から抜け出して、俺の中で現実を大きく占めてしまうような、そんな予感のような感覚が、夢を長く続けられなくしてしまうような気にさせたのかもしれない。

それ以降、呼び捨ても、「○○ちゃん」も、使わなくなった。

実際の会話だけでなく、インスタやLINEの会話でも、怖くて使えなくなった。

クリスマスの前に、インスタでのやり取りに不自由を感じて、久しぶりにLINEで会話をしているときに、「○○ちゃん」と呼んでみた。

彼女はLINEでの会話の時には、俺を「○○くん」と呼ぶ。
それに呼応して呼んでみた。久々に呼ぶのは照れくさかった。

女性の名前を「○○ちゃん」と呼んで、照れくさいと思うなんてことはなかったのに。

今度会ったときには、呼び捨てに挑戦してみるつもりだ。

愛しさを隠して、夢の中にいられるように。平常心で呼ぶ。

 

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