円山町①

ふたりで手をつないで歩くのも楽しい。
ふたりともカジュアルな服装で、仕事モードは完全にない。
それがまた新鮮。
洋服を着ていても素の二人になっているような。

旧渋谷公会堂の交差点を左に曲がると、
歩いている人がまばらになった。

 

 

Bunkamuraの方へ歩いて・・・うろうろ。
そのうちどこを歩いているのかさっぱりわからなくなってしまった。
ひょいとわき道に入り、ホテル街に。
電信柱には円山町とある。
すでに、自分たちが渋谷のどの辺りにいるのかもわからない。
飲食店とホテルが混在しているところで、
まばらながら人も歩いてる。
「どうする?え?どこ?ここでいっか・」と
ホテルに入った。

ホテルはいわゆる人気のあるホテルとは違う、
古い感じのホテル。
受付に私たちより少し年上くらいの女性が座っていた。
「どの部屋も同じ値段ですよ。4時間です。」
「4時間もいないし・・。どの部屋にするか選んでいいよ。」
「うーん、ここにする!」
やっぱりこういうの苦手だ・・。
大森のホテルもこんな感じだった。
恥ずかしがるのも恥ずかしい。
堂々と入るしかない。
でも、緊張の一瞬だったりするわけで。
他のカップルと鉢合わせをするのも嫌だし。
そのうち、いろいろなホテルを楽しめるようになるのかな。

エレベーターで部屋の階まで上がる。
部屋に入ってすぐに東急のアンデルセンで買ったパンを広げる。
2度目ともなれば慣れたもので、
お風呂のお湯をため、ポットでお湯を沸かす。
化粧道具やらなんやらを洗面台に広げる。
帰りに慌てるのわかってるから。

彼が作ってくれていたクラック水晶のブレスレットを手渡され、
腕にはめてみる。
サイズもぴったりできつくも緩くもない。
とっても細かいところに気を使って仕事をしているのがよくわかる。
私も彼のために書いていたチョークアートのボードを数枚渡した。
さながらクリスマスプレゼントの交換みたいって思ったけど、
あんまり行事ごとはしない方がいいと漠然と思っていたから、口には出さなかった。
(でも、ここで言ったら同じことね。)
彼が彼とお揃いで作ってくれたブレスレット。
彼の願いや祈りが込められているようでとても嬉しかった。

置いてあるインスタントコーヒーを入れる間、
ずっと彼は私のお尻を撫でまわす。
「お湯こぼしたらやけどするから!」って言っても聞いてくれず、
私は仕方なく、無視してコーヒーを入れた。
「目の前にお尻があると触りたくて。」
彼のにやけた顔を見たら、私自身が崩壊しそうだったのでひたすら無視。

今日の済ませた用事の話をしながらパンを食べる。
ふたりで半分こずつにして食べるのが、
日常的な感じがして、ホッとできる。
どこかで食事をするよりも、
こういう何気ない、普通なことが好き。

「お湯もたまったし、お風呂に入ろう」
セーターを脱いだとき、
彼の顔が近付いてきた。
唇が触れるか触れないかでじらす。じらされる。
彼の口髭が私の唇をかする。
彼が私の首筋にキスをしながら言った。
「ちゃんと覚えていられるかな?」
意地悪だ。

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