横浜 I

横浜での1日デート

朝、横浜駅のドトールで待ち合わせ。
そこには、平日の日常があふれんばかりに混み合っていた。

タバコをすわない彼女を、喫煙席につれこんでしまった。
彼女は、嫌な顔ひとつせず、なんの文句も言わないで、当たり前のように来てくれる。
いま考えると、身勝手で申し訳ない気持ちになってしまう。

そこで小1時間ほど、仕事の打合せをする。
これが本来の今日の目的。

打合せがすめば、あとは1日ゆっくりと有給を堪能できる。
これが本音の目的。

まずは、彼女のお客さんの個展の見学。
あたかも、仕事の知り合いで打合せしたついでに、ついてきてしまいました、ということでご挨拶。きさくなご婦人と優しそうな紳士。

そこにいると、まるで本当の妻の付き添いをしている夫のような気になってくる。
今日一日、夫婦でいるためのウォーミングアップのようなものだ。

そこから、どこかを歩いて、シーバス乗り場へ。
本当に、横浜の土地勘がないので、彼女についていくだけのオノボリさん。

ふねで山下公園方面にむかうらしい。

出向した船からは、なんとなく横浜っぽい、よく見る形のホテルや、赤レンガや、観覧車などが次々とみえてくる。氷川丸なんて、下から見上げながら横を通り過ぎる。

完全に観光モード。どこか遠くまで二人で旅行にきているような感覚になり、ついウロウロと船内をあるきまわってしまう。

街をあるいていても、船にのっても、そこには、平日のありふれた普通の空気が流れている。

そこに、だれにも言えない秘密を分かち合っているふたりが、なにくわぬ顔をして、絵をみたり、景色をながめたり、次の行き先の話をしたり、ふつうの会話をしている。
どうしても、ちょっかいをダシたくなり、こっそりと、脇をつついたり、おしりや胸をつついたり。

ひょっとすると、周りからは、平日にズル休みをして密会している不倫なふたり、と見られていたかもしれない。それはそれで、知らない土地の知らない人々なので一期一会、たまにはいいかと。

ちょいわるくらいな生き方が、楽しく丸くいられるものだ。

 

 

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