今年初めて彼に会う。
待合せ場所で彼から電話が来て、
彼の優しい声を聞いた。
夫が左に座り、彼が私の右に座る。
上着を彼との間の隙間も覆うようにしつつ、
膝にかけた。
もう誰からも見えない。
右手をそっと彼の太ももの下に滑らせた。
それに気づいた彼は、
そっと私の手を握ってくれた。
彼と指を絡めたり、
指の間を指を這わせあったり、
手のひらを撫ぜあったり、
強く握りあったり。
ただそこに全神経を注いで、
彼の手の感触を堪能する。
左にいる夫は何も知らないまま、
演目を見ていた。
しばらくすると、
私と指を絡めたまま、
彼は気持ち良さそうに寝息をたて始めた。
安心しているのだろう。
寝息がとても優しい。
手が離れてしまわないように、
しっかり彼の手を繋ぎ、
彼の寝息だけを聞いていた。
トイレに立った時、
彼も一緒に着いてきてくれて、
少し言葉を交わした。
「さて、どこでキスしようか。」
「できっこないでしょ。」
そんな会話がくすぐったいけど、
心地いい。
彼と手を繋いでいた小1時間。
彼の優しさが、
彼の穏やかな気持ちが、
彼の安心している想いが、
繋いだ手から伝わってきて、
それが私をも穏やかな気持ちにしてくれた。
言葉はいらない。
彼の温もりが優しさのすべて。
彼やほかの人たちと別れたあと、
皮肉なもので、
私の穏やかな態度の理由も知らないまま、
夫は私に腕を差し出し、
私はそっと腕を夫の腕に絡めた。