横浜(最終回)

遠くに赤レンガ倉庫が見えてくる。

東京に生まれ育ち、東京で事足りて生きてきたので、「横浜」はさほど訪れたことがなかった。

横浜、赤レンガ倉庫。
連想されるのは往年の刑事ドラマだ。
歴史を感じさせる街なかのビルなども、その窓に探偵の姿を探したりしてしまう。

そんなことを話しているうちに、キラキラのライトアップが見えてきた。
否応なくこころがワクワクする。

このワクワクの中に彼女と一緒にいられることが、さらにワクワクをひろげる。

赤レンガ倉庫では、ドイツビールの店が何店も出店しており、一番奥にクリスマスツリーがかざられていた。

多くの若者達のなかで、クリスマスイルミネーションを楽しむ50オーバーのふたり。

わまりからは、会社の同僚にみえるだろうか。
仕事終わりに時間をあわせた長年の夫婦にみえるだろうか。

しょうじきどうでもよかった。
誰も知らない中で、ふたりだけ。周りにだれがいようと、どんなふうに見られようと気にならなかった。
むしろ、明るい出店の前で、キスをしてもいいくらいの気持ちだった。

クリスマスツリーの奥は、暗がりになっている広いウッドデッキがあり、その先には海がある。
ウッドデッキにも、海を眺めたりしている若者たちがちらほらいる。

「キスをしよう」

彼女にそう言って、キスをする。

イルミネーションと海の闇につつまれて、夢はまだつづいている。
いつまでも目がさめなければいいい。そんな気分になる。

ドイツビールとソーセージをつまんで、それぞれの今の生活や、いままでの経験などを静かに語り合う。

夢の時間は過ぎて、そろそろ目がさめる時間が近づく。

駅までの道をゆっくりとあるく。
途中ビルの中庭に喫煙スペースをみつけ一服。

そこのベンチにふたり並んで座って、遠くに観覧車をながめながら、横浜の夜景をぼーっと眺める。

次の夢がまた見えるように、ふたりは夢と現実の狭間で、夢と現実の境目を確認しあう。

電車でわかれる時。
高校生のように、彼女の乗る電車が出るまでホームに立つ。

電車が動き出すと、手を上げて、夢から目覚める合図をおくり、彼女の乗った電車をしばらくながめてから目を覚ました。

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